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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)8470号 判決

原告 伊藤法準

右訴訟代理人弁護士 山崎郁雄

被告 斎藤毅一

右訴訟代理人弁護士 萬野光彦

主文

被告は原告に対し金五〇〇万円とこれに対する昭和四四年七月九日以降その支払いがすむまで年三割の割合による金員の支払いをせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告

主文一、二項と同旨の判決と仮執行の宣言を求める。

二、被告

原告の請求棄却、訴訟費用は原告の負担、との判決を求める。

第二、主張

一、請求原因

(一)原告は、昭和四二年一二月七日訴外狩野建設工業株式会社(以下訴外会社という)に対し、五〇〇万円を、弁済期を昭和四三年一月六日、利息を年一五パーセント、期限後の損害金を年三〇パーセントと定めて貸し渡した。

(二)被告は、原告に対し前項記載の金銭消費貸借契約に際し、同契約による右訴外会社の債務を連帯保証した。

(三)仮に、右連帯保証契約の意思表示が被告本人によってなされたのでないとしても、被告の代理人である訴外星野隆によってなされたものである。

(四)仮に、訴外星野に右連帯保証契約をするにつき代理権がなかったとしても、被告は同訴外人に対し、印鑑証明署、実印、不動産の登記済証を預けて、借入金のため被告を代理して抵当権設定契約をするにつき代理権を付与していたのであるから、右連帯保証契約は右訴外人がその与えられた権限を超えてなしたものである。そして右事情からすると、原告が、右訴外人に代理権があると信じたについては正当な理由があった。よって、民法一一〇条の表見代理として被告はその責に任ずべきである。

(五)仮に右星野の代理権が認められないとしても、被告は、昭和四四年七月三一日原告に右金銭消費貸借による債務の支払の猶予を求め、或はその利息、遅延損害金の支払いをし、これらの行為によって、右星野の無権代理行為を追認したものである。

二、請求原因に対する認否

(一)請求原因(一)の事実は知らない。

(二)同(二)ないし(五)の事実はいずれも否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

第一、分離前の相被告会社代表者本人狩野貞次尋問の結果の一部、およびいずれも同尋問の結果によって真正に成立したものと認められる甲第一号証(但し被告作成名義部分はしばらく除く)、第六、第七号証によると請求原因(一)の事実、すなわち原告は昭和四二年一二月七日訴外会社に対し、五〇〇万円を、弁済期を昭和四三年一月六日、利息を年一割五分、遅延損害金を月二分五厘と定めて貸し渡した事実を認めることができる。狩野貞次尋問の結果中右認定に反する部分は前記各証処に照らして措信できない。

第二、前記狩野貞次尋問の結果と被告本人尋問の結果およびいずれも成立に争いのない甲第二、第三、第五、第一二号証を総合すると次のような事実を認めることができる。

昭和四二年一二月ころ、日本交通福祉協会と称していた団体が社団法人として認められることになり、これを機会に交通福祉会館を建設することが計画されていた。被告は、右協会が社団法人となったときは同協会に勤務することが予定され、併せて、右建設予定の会館内にラーメンの店を持つことを希望していた。そこで、右店舗を持つための権利金一〇〇万円を得るべく、被告の居宅とその敷地を担保として訴外三栄信用金庫に一二〇万円の融資を申込んでいた。その融資の決定がなされない間に、右協会の理事合原から被告に対し、会館の建設資金が不足しているところから右権利金一〇〇万円を急いで欲しい、もしそれができないのであれば、右金庫に担保として供する予定の土地、建物を協会が他から金借するにつき担保として使わせて欲しい旨の申入れがあり、被告はこれを承諾して昭和四二年一二月四日右土地、建物の登記済証と被告の印鑑証明書および印鑑登録済の印を右協会の理事星野隆に交付した。

右星野らは右金策を訴外会社の代表者狩野貞次に依頼し、同人は以前から訴外会社が融資を受けていた原告にこれをあっせんしたところ、原告は、右協会も被告も全く未知であるから訴外会社が債務者となるのであれば貸してもよい旨返答し、右狩野もこれを承諾のうえ被告を原告に引き合せた。被告は原告を自宅に案内して担保物としての土地、建物を見せ、その際原告の問に対し、交通福祉会館を建てる仕事も立派だし、右協会の理事合原は前から知っているのでその依頼によって担保提供をする旨答えた。そこで、既に認定したとおり、原告を貸主とし、訴外会社を借主として五〇〇万円の金銭消費貸借契約がなされ、その際前記訴外星野が被告の代理人として、右訴外会社の債務につき原告との間で連帯保証契約をし、併せて前記土地、建物につき抵当権設定契約をした。

以上のとおり認められ、特に右認定に反する証拠は見当らない。

ところで、各証拠を検討しても訴外星野が右連帯保証契約をなすにつき、被告を代理する権限を被告から付与されていたものと認めるに足りる十分な証拠は見当らない。

しかし、前記認定のとおり、被告は右星野に対し、前記土地、建物を担保として、右協会のために原告から金員を借り入れることを委任し、そのために必要な登記済証、印鑑証明書、印鑑登録済の印などを交付してあったこと、被告が原告からの質問に対し、会館建設に賛同し担保提供する趣旨の答をし、自ら担保に供すべき右土地、建物に案内していることなどの事実からすると、少くとも右星野は被告を代理して、右土地、建物につき、訴外会社の原告に対する前記債務を担保するため抵当権を設定するについては代理権を与えられていたもので、右連帯保証債務をなしたのは、その代理権の範囲を超えてなしたものというべく、また右経緯からすると、原告が、右星野が被告を代理して連帯保証契約をするにつき正当な代理権を有するものと信ずるにつき正当な理由があったものというべきである。

なお、被告本人尋問の結果によると、被告が原告を被告の居宅に案内した際、原告に対し、この担保物件で一〇〇万円借りられるかと聞いたのに対し、原告が、他にも担保に入っているからせいぜいそんなところだと答えた事実が認められるが、右は、担保価値の限度についての話合いとみられるのであって、右事実をもって訴外星野の代理権の範囲を原告に告知したもの、或は原告が右代理権の範囲を察知すべきであったということはできない。

他に右認定を妨げるべき証拠は見当らない。

以上のとおりであるから、被告は原告に対し、右訴外星野が被告を代理してなした前記連帯保証契約につき、民法一一〇条の定めるところにより、その責に任ずべきものというべきである。

よって、原告の本訴請求は理由があるものとして認容し、民事訴訟法八九条、一九六条一項を適用したうえ主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊)

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